脂質はダイエットの敵となるもの・太りやすいものと捉えていませんか。実は脂質は人が生きていくために必要不可欠なものであり、エネルギーを産み出すほかに体温を保つ・内臓を保護するなど重要な働きを持っています。脂質が持つ特徴や役割・推奨される摂取量やおすすめ食材について掘り下げていきます。
脂質とは?
脂質は5大栄養素の一つであり、エネルギーを産み出す糖質・脂質・たんぱく質のなかで最もエネルギー効率が高い栄養素です。
- 脂質:1gあたり9kcalのエネルギーを産生
- 糖質・たんぱく質:1gあたり4kcalのエネルギーを産生
なお、脂質は栄養素のなかでも太る原因として敬遠されがちですが、脂質の成分である中性脂肪は人の体を整える重要な役割を果たしています。
近年のダイエットブームにより脂肪を減らすことに注目されていますが、エネルギー源だけではなく、さまざまな働きをするため、減らしすぎにはご注意ください。
なお、脂質は生体成分のうち水に溶けない物質を指し、体内では水分の次に多くを占めています。
脂質の種類
脂質には以下3種類があります。
中性脂肪
単純脂質の一つであり、体脂肪に多く含まれています。食事から摂取されるほか、肝臓でも合成され、血液によって全身の筋肉や臓器へと運ばれてエネルギー源として使用されます。エネルギーとして使い切れなかったものは皮下脂肪や内臓脂肪として体内に蓄えられます。
運動などで体を動かす際、エネルギー源としてまず血液中の糖質から使われますが、糖質が不足してくると次に中性脂肪が「遊離脂肪酸」に分解されてエネルギーを産み出します。
リン脂質
複合脂質の一つであり、細胞膜を形成しています。これによって細胞の内外をしっかり遮断できるため、急な気候の変化などにも対応できます。
ほかにも血中で脂肪が運搬・貯蔵される際にたんぱく質と結びつける役割も担います。
コレステロール
誘導脂質の一つであるコレステロールは、副腎皮質ホルモンをはじめとしたホルモンや、細胞膜を作り出します。コレステロールの7〜8割が糖や脂肪から合成されており、残りを体外から取り入れています。
なお、コレステロールには以下2つの種類があります。
- LDLコレステロール(悪玉コレステロース)
- HDLコレステロール(善玉菌コレステロール)
LDLコレステロールは肝臓で作られたコレステロールを体内へ運ぶ働きがあります。増えすぎると血管壁に溜まり、脳や心臓に悪影響を及ぼしかねないため、悪玉コレステロールといわれています。。
これに対してHDLコレステロールは、細胞内や動脈内に溜まっている不要なコレステロールを取り込み、肝臓に戻す働きがあります。LDLコレステロールは悪玉と呼ばれていますが必ずしも不要なものではなく、LDLとHDLが丁度いいバランスで体内に存在していることが大切です。
なお、コレステロールを摂り過ぎると動脈硬化を招き、心臓疾患や脳梗塞につながります。
また、脂肪酸も誘導脂質の一つであり、魚や植物油に代表される不飽和脂肪酸と、乳製品や牛肉・豚肉などの飽和脂肪酸に大別されます。不飽和脂肪酸にはコレステロール値を下げる働きがあるため、積極的に摂取しましょう。
参考:
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-014.html
脂質の役割
脂質の役割は様々なものがあり、どれも人が生きていくために欠かせないものです。
エネルギー源
前述したとおり、脂質は1gあたり9kcalのエネルギーを産生するため糖質やたんぱく質よりもエネルギー効率が高いです。脂質は体内に取り込まれて消化されると、小腸から吸収され血液によって皮下・腹腔・筋肉の間などにある脂肪組織に運ばれ、体脂肪として蓄えられます。
体内のエネルギー量が足りなくなると体脂肪をエネルギー源として体を動かします。このように脂質は生命を維持するために必要不可欠なものであるため、不足のないよう食事から摂取しておく必要があります。
ビタミン吸収の補助
脂質には脂溶性ビタミンの吸収を助ける役割があります。これは、脂溶性ビタミンが水に溶けずに脂質に溶けやすく、脂質とともに吸収される特徴を持つためです。また、脂質に溶け込むことで吸収率が上がることも知られています。脂溶性ビタミンであるビタミンA、D、E、Kを多く含む食材は、油炒めや揚げ物など、油を使った料理で摂取するのがおすすめです。
反面、摂取する脂質が少ないとこれらビタミンが欠乏になる恐れもあります。
体温の保持と内臓の保護
脂質は皮下脂肪として、急激な温度変化から体温を保つ働きがあります。脂質が不足するとエネルギー不足になり痩せ細ってしまいます。血管や細胞も脆くなるため、体温の保持ができにくくなります。適度な摂取を心がけましょう。
また、脂質には内臓を衝撃から守るクッションの役割もあります。
参考:
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/diet/diet01/#:~:text=●-,脂質,炭素と水だけです%E3%80%82
脂質の推奨摂取量
厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」にて、総摂取エネルギーに占める脂肪の摂取量を一歳以上の男女で20%以上30%未満と定義しています。
同省による令和元年の調査によると、脂肪の摂取量が30%以上になる人が少なくなく、20歳以上の男性で約35%、同じく女性で約44%との結果が示されています。食の欧米化などで脂肪分の高い食べ物を摂る傾向が見られますが、脂質の摂りすぎはエネルギー摂取過剰となり肥満の原因となります。また、動脈硬化や脂質異常症といった疾患のリスクも上がるので、適正な量の摂取を意識しましょう。
脂質を摂りすぎないよう、以下のことに気を付けて食生活を送りましょう。
- 血中コレステロールを下げる働きのある青魚や、オリーブオイル・菜種油を積極的に摂取する
- 脂質とともに緑黄色野菜や海藻・きのこ類などコレステロールの吸収を抑える働きのある食材を摂取する
- 一日3食しっかり食べる
- 夜遅くに食べない
- 揚げ物・炒め物だけでなく、蒸し料理や煮物料理も活用する
- 肉類は下茹でや湯通しをする
- 肉は脂身が少ないものを選び、調理の際に脂身を排除しておく
- 野菜は大きめに切り、噛む回数を増やすことで食べ過ぎを防止する
- 早食いの傾向がある人は、一口30回を目安にゆっくり食べるよう心がける
青魚は良質な脂質であるオメガ3系脂肪酸のDHAやEPAを多く含みます。このほか悪玉コレステロールや中性脂肪を減らし、血栓の形成を抑える役割もあります。
あじ・いわし・さばなどの青魚のほか、かつおやまぐろなどの赤身魚、魚のかまなどに多く含まれるため、積極的に摂取しましょう。ですが、摂取のし過ぎは禁物であるため適度な量を忘れないよう意識してください。一日3食のうち、一回の主菜は肉ではなく魚を摂るように心がけましょう。
また、オリーブオイルや菜種油もLDLコレステロールを下げる働きがあるため、調理の際にこれらの油を意識して使用しましょう。
そのほか、緑黄色野菜や海藻・きのこ類に含まれる食物繊維には脂質の排出を促す働きもあります。低カロリーな食材でもあるため満足感を得やすいため、積極的に摂取したいですね。
基本的に食事は一日3回、毎回同じ時間に摂取することが望ましいです。また、朝・昼・夜ご飯の量のバランスは3:4:3を目安に摂取しましょう。夜ご飯は食後の活動が少ないことが想定されるため、夜ご飯が多いと肥満を招きかねません。
また、噛む回数を増やすことで満腹中枢が刺激され、食べ過ぎを防止することができます。
そのほかにも野菜を大きめに切る・ゆっくり噛んで食べるなど、少しの手間や工夫でバランスの良い食生活が期待できます。
参考:
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_eikyou/fat_care.html
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g4/cat450/sb4501/p004/
まとめ
脂質は人が生きていくうえで欠かせないものです。摂取のし過ぎは厳禁ですが、不足することも体にとって悪影響をもたらすことを意識してください。バランスの良い食事が大切です。
特に近年の食の欧米化により、日本人は肉の摂取量が増えて魚の摂取量が減っていく傾向にあります。青魚など不飽和脂肪酸を多く含む食材を食生活のなかで積極的に摂り入れましょう。
監修者 深澤 由江(管理栄養士・調理師)
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