アレルギー症状に悩んでいる人であれば、「このアレルギーが治ればいいのに」と誰もが思うことでしょう。アレルギー治療法のほとんどは、アレルギー症状を軽減させる治療です。しかし、医療は日々進歩していますので、いつかはアレルギー治療に効果的な治療方法が確立されるかもしれません。

この記事では、

  • アレルギー治療の安全性
  • 治療でアレルギーは治るのか
  • 気づきにくいアレルギー症状の胃腸炎について

といった、アレルギー治療の最新情報について解説しています。

食物アレルギーの最新情報!治療薬登場の兆し?

2024年2月16日、アナフィラキシーショックのリスクを含む食物アレルギーの反応を軽減する治療薬オマリズマブが初めて承認されました。治療薬オマリズマブは免疫グロブリンEに関係する食物アレルギー患者に対して、アナフィラキシーショックのリスクを含むアレルギー反応を軽減させます。

『免疫グロブリンEとは免疫の中で大きな役割を担っている成分で、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類があります。その中で、IgEは喘息などのアレルギーを起こす抗体とされています。

引用:一般社団法人日本血液製剤協会HP

食物アレルギーの最新治療薬として期待できるオマリズマブとは、どのような治療薬なのでしょうか。治療方法や効果についてさらに詳しく解説します。

食物アレルギーの最新治療薬「オマリズマブ」とは?

2003年、注射用オマリズマブは中等度から重度のアレルギー性喘息の治療薬として、米国食品医薬品局(FDA)に承認されていました。さらに2024年には、喘息などの食物アレルギーを経験する1歳以上の患者において、アレルギー反応を軽減するために承認された最初の薬となりました。アレルギー反応の軽減には、咳などの軽い症状だけでなく、アナフィラキシーショックのリスクの低減も含みます。オマリズマブはピーナッツやそのほかの一般的な食物アレルギーの治療にも期待されています

オマリズマブは下記の機関で研究されてきました。

  • ジョンズ・ホプキンズ小児センター
  • ジェネンテック社
  • ノバルティス社

食物アレルギーの最新治療薬「オマリズマブ」の効果は?

ジョンズ・ホプキンズ主導の研究により、オマリズマブがピーナッツやそのほかの食物アレルゲンに対する耐性を高める効果が証明されました。オマリズマブの研究は「ピーナッツアレルギーとそのほか少なくとも2つの食物アレルギーをもつ180人の参加者(1〜55歳)を対象に、16〜20週間のオマリズマブ注射とプラセボ注射の効果を比較する」というものです。

プラセボとは、本物の薬と見分けがつかないが有効成分が入っておらず、臨床試験に使用するためのものです。

引用:日本ジェネリック製薬協会HP

16週間後の結果を見ると、オマリズマブを投与された参加者の66.9%が、600ミリグラム以上のピーナッツタンパクに耐えることができました。(600ミリグラムのピーナッツタンパクは、約2.5個のピーナッツに相当します。)一方で、プラセボ注射では同じ量に耐えれたのは6.8%だけでした。さらに、オマリズマブを投与された参加者のほぼ50%の参加者はピーナッツ約25個分にも耐えることができたのです。この結果からも、オマリズマブを使用した治療はアレルギー症状を軽減する効果が高いことがわかります。さらに、オマリズマブを投与された参加者は、卵・小麦・牛乳・そのほかのナッツ類などの複数のアレルゲンに対する耐性も増加したという結果になりました

食物アレルギーの最新治療薬に関する注意点

食物アレルギーの症状を軽減できる最新治療薬オマリズマブの使用には注意点もあります。治療を行うアレルギー患者は重篤なアレルギー症状が出てしまう食品を避け、緊急時のために自己注射用のエフェドリンを携帯する必要があります。オマリズマブの研究ではピーナッツに耐えられた参加者もいましたが、14%の参加者は少量のピーナッツにも耐えられなかったという結果もあるので注意が必要です。また、参加者の症状には偏りもあることから、治療薬が完成したというわけではなく、今後も研究調査が必要であるとされています

少しずつ食べる経口免疫療法のより安全な実施方法が明らかに

経口免疫療法とは、食物アレルギーをもつ子どもに対してアレルギーの原因となる食べ物を少しずつ摂取することで、アレルギー症状を改善させる治療法です。経口免疫療法については、どれくらいの量から始め、どれくらいの量で効果があるのかを医者などの専門家とともに慎重に検査しなければなりません。子どもにアレルギーの原因となる食べ物を食べさせることは不安だと思うので、経口免疫療法のより安全な実施方法が研究されてきたので解説します。

経口免疫療法とは?

経口免疫療法については、国立成育医療研究センターアレルギーセンターで以下のような手順で研究されました。

  1. 食物経口負荷試験(問診や血液検査、皮膚検査で疑われるアレルギー食物を実際に摂取する検査)を行う
  2. 食物経口負荷試験による閾値(症状が出た量を除いた負荷量)をもとに摂取量を決める
  3. 数値をもとに5つの方法で実際に原因食物を摂取し、効果を分析する

研究の対象は、鶏卵または牛乳アレルギーの子ども4歳〜18歳です。食物経口免疫療法は今まで完全に除去するしかなかった重症なアレルギー症状をもつ子どもにとって有効な治療法ですが、安全性やどれくらいの量を摂取するべきかが明確ではなく、簡単に実施できるものではありませんでした。そこで、今回の経口免疫療法は、安全で効果のある方法を調査する目的で行われました。

経口免疫療法による効果は?

経口免疫療法の結果、検査した閾値の100分の1から摂取を始め10分の1で維持する方法がもっとも安全性が高く、効果も期待できることがわかりました。この摂取量は従来の方法よりもアレルギーに耐える数値が高く、アナフィラキシー症状が出現するリスクを抑えられます

経口免疫療法の注意点

経口免疫療法には注意点もあります。食物アレルギーはアトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー疾患との関連性が高く、慎重に治療しなければなりません。実際に経口免疫療法を行う場合は、個人で判断するのではなく、必ず医師などの専門家に相談し食物アレルギー以外のアレルギーにも配慮しながら実施しましょう。

食物タンパク誘発胃腸炎の原因が解明!?

食物アレルギーといえば、じんましんや咳などの症状を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。しかし、意外と気づきにくいアレルギーが嘔吐や下痢を引き起こす食物タンパク誘発胃腸炎です。食物タンパク誘発胃腸炎とは何なのか、新たに分かった原因についても解説します。

食物タンパク誘発胃腸炎とは?

食物タンパク誘発胃腸炎とは、原因となる食べ物を摂取したあと1〜4時間たつと嘔吐を繰り返したり、24時間以内に下痢を引き起こしたりする症状のことです。これらの症状が出る疾患のことをFPIES(エフパイス)と呼びます。FPIESは食べ物を食べてすぐに症状がでる食物アレルギーとは違い、じんましんや咳などの症状はないのが特徴です。近年、患者数の増加とともに注目されていますが、特徴的なアレルギー症状が出ないため気づかないことが多いアレルギーです。FPIESと判断する基準としては、原因となる食物摂取後の嘔吐のほか、下記の9項目のうち3つ以上を満たした場合です。

  1. 同じ食物を摂取した際に、2回以上繰り返して嘔吐する
  2. 2つ以上の食物を摂取した際に、摂取後1~4時間後に繰り返して嘔吐する
  3. 極度の活力の低下が見られる
  4. 血の気が引き、青ざめる(蒼白)
  5. 緊急受診の必要がある
  6. 輸液をする必要がある
  7. 食物摂取後24時間以内の下痢
  8. 血圧の低下
  9. 低体温

食物タンパク誘発胃腸炎の原因は?

食物タンパク誘発胃腸炎の原因は、下記のとおりです。

原因食物対象延べ人数(243人)
鶏卵141人(58.0%)
※94.3%(133人)は卵黄が原因
大豆27人(11.1%)
小麦27人(11.1%)
16人(6.6%)
牛乳15人(6.2%)
9人(3.7%)
果物5人(2.0%)
そば1人(0.4%)
さつまいも1人(0.4%)
イクラ1人(0.4%)
参考:国立成育医療研究センター

食物タンパク誘発胃腸炎の最も多い原因食物は鶏卵(卵黄)で、次に大豆と小麦が多いことが分かります。調査対象は食後1〜4時間以内に嘔吐を経験したことがある小児225人で、以下の3つのポイントに沿って調査した結果となります。

  • 原因となる食べ物や症状の聞き取り
  • 国際的な診断基準との適合性
  • 血液検査による特異的IgE抗体(アレルゲンに対応する血液内にある抗体)の抗体値

上記の原因食物のなかでも、とくに鶏卵・大豆・小麦・牛乳は1歳未満と早い時期に発症しています。一方で、魚や貝は3歳以降と時期が遅い傾向であることがわかりました。

アレルギー治療の最新情報は常にチェック

アレルギーで悩んでいる人の多くは、治療方法について効果や安全性に不安があるのではないでしょうか。今回解説したオマリズマブを使用した治療と経口免疫療法の実施方法は、効果や安全性が高く評価されている治療法です。また、典型的なアレルギー症状とは異なる、食物タンパク誘発胃腸炎についても紹介してきました。食物アレルギー治療については今後も研究が続けられ、さらに高い効果や安全性が証明されていくので、アレルギー治療の最新情報を確認しておきましょう。